第5回 叱られ帳
西井拓也 ⁄ 精神科看護 2006年8月号掲載
前回紹介したのは”褒められ帳”の活用方法でした。
褒められることは記憶から薄れてしまいやすいので、忘れないように書き込んでおきましょう。
でも、褒められてばかりでは調子に乗ってしまうかもしれません。
裏表紙からは”叱られ帳”にして使うことにしましょう。
実は私が最初に必要だったのは、褒められ帳ではなく”叱られ帳”のほうでした。
大学時代にアルバイトしていたファーストフード店で、1日中叱られてばかりだったのです。
そのファーストフード店では、注文を受けてから作り出す形式で、スピードが違います。ちょうどVTRを倍速で見るようなスピード感覚です。いま行っている作業を1秒でも速くしなければならない一方、頭の中ではその次の次の次くらいの段取りを考えていなければなりません。
たとえば、猛スピードでシェイクを作っている最中に、いま入っているオーダーに耳を傾け、次のポテトのことを考えつつ、他にお客様がいないかを気にしていなければいけないという具合です。
仕事を覚えるのに時間がかかっていた私は、上司であるチーフをイライラさせてばかりでした。
チーフがイライラすると、周囲もピリピリしてしまうので、私のせいでまわりに迷惑をかけていました。
サイズを間違えたり、数が足りなかったり、指示された仕事ができていなかったり、仕上がりの状態が悪かったり、どう動いていいのかわからなかったりと、失敗の連続でたくさん叱られました。
1つの仕事で3つも4つも叱られるので、私もパニックになってしまうのです。
いいかげん叱るほうも頭にきて、思いっきりドラム缶を蹴っ飛ばされるシーンもありました。
でも、チーフは私のことが嫌いなのではありません。特に好きというわけでもないのですが、別にイジメているのではないのです。ただ、私がついていけていないだけでした。
お店側は、私がスグに辞めてしまうだろうと考えていたようです。
入ってすぐに辞めてしまうアルバイトの典型的なタイプだったからです。
それでも私が一生懸命なのは伝わるので、周囲から同情されていたぐらいでした。
たしかにアルバイトなので、つらければ辞めることもできます。
同じ時期に入ったバイトも、すぐに辞めてしまいました。でも私は、何故かがんばることばかり考えていたのです。
「うまくできない原因はなんなんだろう」と自分のダメな部分を前向きに考えていました。
本屋さんで”上手な叱られ方”の本を買って読んだりしてみました。
どうしても、仕事から逃げたくありませんでした。
叱られ方の勉強をしていくと、少しずつやる気になってきました。
周囲は「あんなにボロボロに叱られてるのに、どうして元気なんだろう」と思っていたようです。
私はこの頃から仕事が好きだったのだと思います。
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